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◆ミステリーBARヘようこそ
ON AIR : 2001年8月2日(木)20:05〜21:30 NHK-AM1
案内(語り手)・長谷川勝彦/聞き手・北上次郎/ゲスト・乃南アサ ※ラジオドラマ「団欒」の声の出演者に関しては、 こちらをご覧ください。 ------------------------------------------- 語り:いらっしゃい。 今日は失礼してお先に一杯やってますよ。 真夏の夜に開店するミステリーBARも3年目を迎えました。 あなたも今ではすっかり常連の仲間入り。今をときめくミステリ作家の本音トークと、 その作品世界、堪能してくれることと思います。 さて、今日はあなたを2000年にお届けしたミステリーBARの中へご招待したいと思います。 誰の時かって?それは始まってのお楽しみ。さらにその作家さんから、 近況報告をかねた声の便りも届いています。そうそう・・・そういえばあの日は 真夏の激しい雨が降る日でした。お話の途中も、遠くで雷が鳴ったりしてね。 それでは、去年、2000年真夏のミステリーBARヘいってらっしゃい。 ・・・・・あ、マスター おかわりまだ? マスター:あ、まもなく。 ------------------------------------------- 語り: ミステリーBARヘようこそ。あなたをとっておきのミステリーの世界にご案内します。 マスター:いらっしゃいませ。降ってきましたか? 語り:ええ、つい今しがた。 マスター、私は今日はビールから始めましょう。あなたは何にします? まったく、真夏の夕立というやつは予想もできない。 マスター:どうぞ。 語り: 今日おいでになる作家の方も、雨に濡れなければ良いんですがね・・・ そろそろ教えてくれって?いいでしょう。 今夜の作家は女性。デビュー作から女性の心理描写には定評がありますね。 しかも心理的にどんどん追い込まれていく人間を描く辺り、私なんか読んでいて 背すじが少しばかり寒くなる思いでした。 平成8年に女性刑事と中年男性刑事、そしてオオカミ犬を主人公にした[凍える牙]で 直木賞、いまや押しも押されぬ女性人気作家といえばそう、乃南アサさんです。 この店の常連、カウンターのいつもの席に座っている書評家の北上次郎さんも 大変に注目している作家だそうで、今日お会いするのが初めてだということなんですが 面白いお話、聞けそうですよ。 マスター:いらっしゃいませ。 語り:おいでになりましたよ。あらあら、 可哀想に髪の毛も濡れて、かなり強く降ってきたみたいですね。 ------------------------------------------- (店内の雑音などに紛れて話し声がだんだん大きくなってきます) 乃南:・・・・・その近くだと思いながら・・・・ 北上:じゃあ、小説を書きたいという気持ちはずっと。 乃南:はい、あったんです。 それでこうタイミングを図っていたというか。 北上:ええ。 あの、日本推理サスペンス大賞っていうのは、ミステリの賞なんですけど、ということは ミステリをお書きになりたいとずっと前から思ってらしたと、そういうことなんですか? 乃南:いえ、そういうことではないんです。 たまたま第一回だったので、第一回というのは誰とも比べられなくて良さそうだぞ、と(笑) 北上:なるほど。ミステリの賞では江戸川乱歩賞とか 色々あるんですけども、そうですか、その第一回というのが決め手になって。 では、ご自分の中で小説を書こうという漠然としたものが、その第一回という告知を見て ミステリを書こうという風に。 乃南:そうですね・・・漠然というか、 焦ってみたいなのは多少あったんですね。 北上:どういう? 乃南:そろそろ書き始めなくちゃという、 どこかでタイミングを掴まないと、やるやる言ってそのまま時間ばかり過ぎて いっちゃいそうな気がするなー、という。そういう意味での焦りはあったんですけど。 そういうタイミングを図っている時にたまたまその告知を見て、 第一回の方にまず目が行ったんですね。でも推理サスペンス大賞ということなので、 どうも何か推理もので、サスペンスとしての味がないといけないらしい、ということは わかったんですが、どういうものを推理小説というか、サスペンスというかを 全然わからなくって、あの、友達に聞いたり(笑)したんですけど。 北上:ということは、それまでいわゆる一読者として、 推理小説やミステリをあまりお読みになってなかったということですか? 乃南:そうですね、あまり熱心な一読者では ないですね。 北上:あっ そうですか(驚)。意外ですね。 乃南:あの・・・コンプレックスみたいなのが ありまして(笑)なぞなぞコンプレックスみたいなのがありまして、なぞなぞが苦手 なんですよ。昔から。私の小さい脳みその中では、どうもミステリというのは謎が提示されて 、読みながら自分なりに犯人を推理していくものらしい、という風に何となく思っていて、 絶対に私にはわかりっこないって思っていたんですね。 だから、じゃ つまんないだろうかなぁ、読んでも・・・っていう食わず嫌いみたいな・・・。 北上:小さい頃の読書体験っていうか、ミステリを お読みになってなくても、何かじゃあ自分の好きな分野の小説を読まれてたと思うんですが、 どういうものをお読みになってたんですか? 乃南:いや、本当は小学生向けとか、そのくらいの 頃には、子供向けに直してある江戸川乱歩のものであるとか、そういうものも読んでました。 何にも覚えてないんですけどね。そういうジャンルにとらわれず、普通のいわゆる 「不思議の国のアリス」みたいな、そういうジャンルのも読んでましたし。 北上:どこかで、小説をいつか書きたいというか、 書くかもしれないとか、そういう風に思われてたことは、何かそういう・・・ 乃南:あるんでしょうね。 北上:触発された作品なり、影響を受けた作品が どこかにあるような気がするんですが。それはご本人は意識なさってないんですか? 乃南:まるで覚えてないんです。かなり呑気というか、 思い込みだけで。 北上:でも、何もその・・・一作も書かないで いらっしゃって、突然に一回目という文字で触発されたにしろ、書いた作品が優秀作を 取っちゃうっていうのは、凄いことなんですけども。一作も書いてないんですか?小説は。 乃南:書いてないです。あの、とにかく何か書くことで やっていこうと思い始めたのは、具体的にはもうちょっと早い、25かそのくらい・・・。 北上:書くことっていうのは、小説っていうことで なく、 乃南:もっと広い意味で、何か書いていくことで。 北上:ライターであるとか、芝居の戯曲である とか・・・ 乃南:ええ。その時に、シナリオの勉強は少し したんですよ。 北上:それはどこかの学校とか教室とか、 お通いになって? 乃南:添削みたいな・・・。 北上:通信教育みたいな? 乃南:はい。 北上:その後、その、小学生の頃はジュブナイルを お読みになったってことなんですけども、その後はどういう小説をお読みになってたのか・・・ 乃南:ん〜〜(笑)読んでないことはないんですけど、 はしから忘れちゃうんですよね、読んだものは。 北上:かなり、でもお読みになってる方では あるんですかね? 乃南:波がありますね。読む時はものすごい勢いで 読んで、読まない時は半年でも一年でも読まない時があったり。あと、いわゆる大人の、 というか普通の本を読むようになったのも、小学校の高学年くらいからだったと思うんですが、 中学校の二年生くらいになったら、何を読んだらいいのかわからなくなった時期があって、 先生に相談したりなんかした時期がありましたね。 なんか、読んでみたい気持ちはあるんだけども・・・・ 北上:その時、先生はどんな風に答えましたか? 乃南:ご自分のお好きな本を貸して下さいました。 北上:いわゆる文学系の? 乃南:吉村昭さんなんか、貸してくれました。 北上:あぁ・・・。 乃南:それまでだったら多分、小学校の高学年から中学一年生くらいまでは、翻訳ものばっかりそれこそヘッセとかそんなのを読んだりしていたので、日本人の小説というのはあんまり、多分読んでなかったと思うんですね。そういう点では、吉村昭さんの本がきっかけになったようには記憶してます。 北上:それが中学生。 乃南:はい。 北上:ってことは、特別影響を受けた作品とか 作家とかっていうのは・・・?まぁ、今さっき吉村昭さんがきっかけにはなったかも しれないってお話されてますけども・・・いわゆるその・・・ 乃南:自分の作品世界とか、作風とかにものすごい 鮮烈に強烈に、洗礼のようにというか、そういうのは少なくとも、意識している中ではない。 無意識ではあるかもしれないですし・・・ 北上:割と最初は、心理サスペンスが多かったと 思うんですけど、心理サスペンスの名手と言われている向こうの作家のね、 カトリーヌ・アルレーであるとか、そういう作家の影響を受けたのかな、と勝手に 思ったこともあったんだけど、じゃあそういうこともなくて。 乃南:あんまり意識してないです(笑) 北上:そうですか。 ------------------------------------------- 語り: 自分の書いているものがミステリであるとか、普通の小説であるとか意識することなく、 自分が書きたいものを書く。乃南さんの興味は、では一体どこにあるのか・・・ 続きが始まっています。 北上:「殺意」と「鬼哭」という作品があって、 文庫にする時に合本というか、一冊に合わせたでしょう。これは僕、面白い趣向だと 思うんですが。 「殺意」っていう作品が犯人の側から書いて、「鬼哭」という作品が被害者の側から書いて、 死ぬ瞬間でしたっけ、を述懐を述べるといった感じで、単行本ではもちろん別々に出て、 文庫本にする時に一緒にするという、すごく面白かったんですけども。 あれは例えばじゃあ、同じこと言えば「殺意」を書く時に最初から「鬼哭」を書くって いうつもりじゃなくて? 乃南:あの時はつもりだったような気がしますね。 北上:そうですか。実際書くのは終わってからでも、 構想としては最初から。 乃南:あれは何か変な本ですよね、あとから 読んでみると(笑) 北上:文庫で合本っていうのは、すごくアイディアが 面白かったと思いますね。もしかすると単行本で別々に出ていると、まあ熱心な読者の方は 勿論気が付きますけれども、そうじゃない、今出版洪水で本が溢れてる世の中ですから、 別に出ているとなかなか気が付かない。で、ああいう風に一つになるとすごくわかりやすくて、 面白い実験だと思いますね。 '94年の作品で「風紋」という作品が、割とこれ評判になった作品なんですけども、 被害者の遺族と加害者の家族の、その事件が起きた後のことを描くという、 これまで日本のミステリになかったタイプの小説だと思うんですけども。あの「風紋」 っていう作品に限って、どういうところからああいう作品を発想なさったのか、 というのをお聞かせ願えませんか。 乃南:今とだいぶ時代が、この5〜6年で 変わったと思うんですね。その、犯罪被害者っていうのに対して、あまりにも配慮が なされていないなあという意識が前からあったんですね。ずっと前から。 そして、サスペンスドラマとかそういうのをテレビで見ていても、被害者というのは お話の取っ掛かりを作る役としてあるだけで、ただ単にそこに死体が転がって、 殺されてしまった被害者がキャーッっていって死んでるわ、とか騒ぐけども、 そのままその死体を跨いで犯人探しとかに行くようなイメージが私の中にあって、 人一人の命がこう、他者によって奪われるというのはそういうものではないだろうと いう・・・・・。それは勿論テレビの場合やドラマの場合は、楽しんで見るものですから、 そんなことにこだわることはないのかもしれないんですけれど、実際にその、現実に 起こっている殺人とか事件とは、そういうもの、被害者の側から見る必要がもう少し あってもいいんじゃないかな、というのはずっと前から持っていたものだったんですね。 で、人が一人死ぬという現実を身近に感じたりとか、経験してしまったりしたらば、 それはもう、その死体跨いで犯人探してる場合じゃないというのを書いてみたいというのが、 ずっと前からあったものですから、それでたまたま打ち合わせの段階で、 犯罪被害者のことをテーマにして書きたいんだということで始まったんですけど。 北上:なるほど。 '96年に「凍える牙」で直木賞を受賞なさったんですけども、それ以前の、ご本人は いわゆる心理サスペンスを書いているという意図はないという風にさっき仰ったんですが、 それまでの作品からするとちょっとやっぱり、傾向が違った作品だったような気が するんですが、意図的に? 乃南:いえいえ、そんなことはないですけど。 作風が、だからそんなに違うとも自分では気が付いていないんですね。 ただ、自分の中でテーマが、イメージをどんどん作ってっていう場合も沢山ありますし、 どちらかというと私はいつもテーマから入りたい方なんですが、「凍える牙」の場合、 それにプラスして”オオカミ犬”というのにものすごく私が惹かれていたので。 どうしても犬ですから走らせたいっていうか、自由にさせたいとか走らせたいとか 走る姿を見たいとか、そういう思いが強かったので、それで出たのかもしれないんですね。 もし違いがあるとすると。架空の犬だと思われて、そんなものは世の中におらんと いう風に思ってらっしゃる方も、結構いらっしゃるみたいですね。 北上:じゃあ、「凍える牙」については あの女性刑事−ヒロインのね−女性刑事のキャラクターよりも犬の方を書きたかったと いう要素が強いわけですか? 乃南:(笑)両方です。 女性刑事は割合と等身大というか、自分と歩調を合わせて仲良くしてくれそうなというか、 そんな女友達を作りたいような感じで、彼女のキャラクターというのは立っていったんです けども。やっぱりその二つでしょうか。 北上:今現在のことなんですが、執筆する時って いうのは夜型ですか、朝型ですか、昼型ですか? 乃南:え〜、朝昼型ですね。普通のお勤めの方の ようなリズムで(笑) 北上:それはもう。デビューの時からずっとそのタイプ? 乃南:そうです、基本的には。ただ、デビュー当時には まだ他の仕事と掛け持ちでしたので、そういうわけにはいかなかったですが、 この仕事で一本になってからはずっと。 北上:書く時にあの、これも作家の方によって いろんなタイプがあると思うんですけども、例えばプロットをしっかり作って書き出す ような作家と、プロット全然作らないで書き出す作家と、その人の力点の置き方によって、 タイトルが決まらないと書けない作家とか、あとラストシーンが浮かばないと書けないとか、 色んな方がいらっしゃるんですけども、一番、乃南さん苦労する所という点はどういう所 ですかね? 乃南:出だしのシーンです。 北上:ああ。冒頭。プロットはしっかり作ってから 書き出す方なんですか? 乃南:あの、それは作品によって随分違います。 プロット作りたい場合もあるし、全く作らない場合もありますね。基本的にはでも多分、 作らない方だと思います。 北上:冒頭というのは私、小説書いたことないんで わからないんですが、つまり自分の気に入った冒頭が出てくるまで・・・ということだと 思うんですが、それはどうやって浮かんでくるんですか? 乃南:ねぇ、どうやってなんでしょう。 方法がわかれば、できると思うんですけど(笑) 北上:一生懸命やってても出てくるもんじゃないです よね。何かの時、お風呂に入ってる時とかに突然浮かんでくるものですよね。 乃南:そうですね、それまで待ってます。 北上:そうなんですか。でも、すごい締め切り抱えて そんな、余裕ないんじゃないですか? 乃南:ないけど・・・書けないもんって言って 待ってます(笑)自分の中で、結局小説を書いている時というのは、私の場合ですが、 私にとっては仮想現実というか、現実になってしまっている部分があるんですよね。 登場人物であるとか、そのシーンであるとか、そうすると、あの・・・何て言うんでしょう、 変な言い方ですが見てきたような嘘をつくというか。 そういう部分があると思っているので、そのシーンがかなり明確に見えないと、書き始められ ないんです。季節であるとか、天気であるとか、場所であるとか・・・。 北上:じゃ、プロットを考えるっていうより、 ある種の具体性ですかね。 乃南:一番最初の取っ掛かりがそうですね。 プロットは、もしある程度具体的に考える場合があると、それよりもずっと前にかなり 何となく頭の中で出来上がって、書いてはいないですけど頭の中でこんな感じのお話で、 こうなるのかな〜、くらいには(笑)思っていて、その幕開けがわからないのでずーっと ぐちゅぐちゅしてる・・・ということの方が多いです。 北上:ということは・・・作家の内側の話なんで、 なかなか言葉にしづらいかと思うんですが、何か一つの小説をお書きになってる時に、 常に頭の中に違う話が時々浮かぶ、ということがあるということはどうですか? 今の小説には合わないから何かの時にこれは書こう、とか・・・ 乃南:いや、そんなことはないです。私、一回に一つしか 考えられないので。 北上:えっ、でも掛け持ちの連載とかなさったこと ないんですか?同時に二本とか三本とか。 乃南:ないですね。だから、発表されてる段階で 掛け持ちのように見えていたとしても、もう一本脱稿しちゃって最後まで書き終えているのを、 分載して頂いてるとか・・・。 北上:あぁ、そうですか。 乃南:私、いっぺんに二つできないんですよ。 北上:珍しいタイプの作家の方じゃないですか?(笑) そうでもないですか? 乃南:いや、わからないです・・・他の方のことは わからないですけど、ものすごい、そういう点、不器用ですね。 北上:でも、作品数は少なくないですよね。 '88年に「幸福な朝食」が出ているわけですから、12年。ですよね。今まで12年で・・・ 乃南:誰かに数えてもらったんですけど、 単行本で35〜36とか・・・ 北上:12年とすると、大体年三冊くらい。 三冊といえば決して少なくないですよね。 乃南:どうなんでしょうか。 北上:少なくはないと思います。 まあ、多い人は年に12とか20とか・・・・・・・・・ (店内の雑音に紛れて話し声が小さくなっていきます) ------------------------------------------- 語り:人前に出て話すのは苦手だと仰る乃南さん。 でも、作品に対する思いやこだわりが、至る所に感じられます。 乃南さんの心理描写は、被害者の家族の立場、加害者の家族の心情、こうした様々な立場の人々を 描き出すのにいかんなく発揮されています。北上さんとの話の続き、まだまだ楽しませて 頂けそうで。 あ、マスター、ビールおかわり。 (BGMが数分続きます) 語り:ミステリーBAR、楽しんで頂けてますか? 乃南アサさんと北上次郎さんのお話も弾んでいらっしゃるようで。 ・・・・・あなたはいつもこの時間になるとそわそわ。乃南さんの作品を読んでみたいって? ・・・そうですね、短篇も数多く意欲的に書いていらっしゃいますからね。 私のお薦めは「団欒」。中でも表題作の「団欒」、普通の会話をしながら、 普通でない会話が進行している・・・。能書きはこれぐらいにして、さあ、乃南ワールドに 行ってらっしゃい。 ------------------------------------------- ラジオドラマ「団欒」 〜冒頭から死体の処理に手を焼き、鉄板焼きをしながら相談するシーンまで〜 語り:どうです?死体隠しに伴う騒動、一見まともな 会話に聞こえてしまう怖さ。乃南さんの世界の一端が垣間見えたでしょう。 どんなきっかけでこんな話を書くようになったのか・・・ほら、カウンターでは この短篇について、乃南さんと北上さんの話が始まりましたよ。 乃南:おかわりをお願いします。 北上:私もおかわり。 この「団欒」という作品は、'94年に出た作品集の中の一篇なんですけど、 割と好きな短篇という風にお聞きしたんですけども。 乃南:そうですね。割合、短篇集の場合は、 一冊ごとに括りというか、同一テーマみたいなものを設けたい方なんですが、その「団欒」の 場合は妙な家族というか、何か変な人達というか、そういうのを括りにしたんですね。 よそ様の家庭のことっていうのは、現実には絶対わからないことなので、かなりそれは 無責任に想像しただけなんですけども。こういう、家庭から、玄関から一歩足を踏み出すと、 すごく普通の社会人に見えてしまうかも知れない人達が、家の中に抱えてる妙な部分というか、 そういうのに興味があったので、 そういう点では面白かったですね。 あることないこと想像するのが。 北上:テーマで、乃南さんの場合は短篇集を編んでる。 非常に珍しい形ですよね。じゃ、大変なんじゃないですか? 乃南:大変です。 北上:普通は自分の所に、書いた小説が何作が 出来たからっていうのが多いんでね、そういうテーマで括ると、ね。 乃南:そうですね。でも面白いです。 前から見たものを今度は横、斜めから見るとどうなるとか、ひっくり返してみるとどうなるとか、 そういうのが出来ますから。 北上:短篇っていうのはあの、よく作家の方が 仰るんですけども、長編に比べて大変であると。その長さが短いから、簡単なんじゃないか と読者は思うわけなんですけど、実際はそうでもなくて、長編と同じだけの力と準備が必要だし、 その割に当然短篇一本じゃ本にならないから、すごくある意味大変だと仰るんですね。 乃南さんはどうですか? 乃南:そう思います。短篇一本書くエネルギーと 長編一本書くエネルギーは、物理的には勿論長編の方が時間はかかりますが、エネルギーと しては同じだけ。 北上:でも、お好きなんですよね。 乃南:好きです。短篇はすごく勉強になると 思ってるんですね、私は。長編と短篇じゃあどこが違うんですかと、そう言う風に質問 されるんですが、長編の小説の一篇が例えば、映画であったりとかフィルムであったりとか、 そういうつもりで撮っていくものだったとすると、短篇は、シャッターを切って一枚だけの 写真を撮るような、そういう作業のように私は思っているので、その切り方、一つのシーンを どう切り取るかというのが、短篇に試される所だというのは思うんですけれども。 だから最新の注意も払わないといけないし、枚数という制約もあります。 テーマの切り取り方であるとか言葉の磨き方であるとか、そういうのは確かに制約があるので、 要求される水準も高くなるとは思うんですけれども・・・・ 語り:なるほど、他人の生活の 変な部分も想像しながら、短篇を紡いでゆく・・・。え?私も想像力は逞しい方だって? あることないことを想像するといったってあなた、問題はその想像力にリアリティを 感じさせるだけの筆力を持っているかどうかですよ。もっとも、読んで楽しむだけでも 想像力は必要ですよね・・・・・ (BGMが数分続きます) ------------------------------------------- ラジオドラマ「団欒」 〜死体の処理の方法を決める所からラストまで〜 語り:いやはや、家族の団欒という言葉の意味が まるで変わってしまう乃南さんの世界、堪能してもらえましたか? そういえば私の隣のご家庭、先週ご家族でにこやかに・・・ ま、それはともかく、 乃南アサさんと書評家の北上次郎さん、どうやら最近の作品についての話に熱が入って いるみたいで・・・ 北上:あの、'99年の「ピリオド」という作品を お書きになったんですが、これは私がこう、すごく面白いというか、感心というと 偉そうなんですけども、感じた小説なんですけども。 乃南:ありがとうございます。 北上:殺人が最後の方にっていうか途中に、 半ば過ぎにちょっと起きるんですけども、特別犯人探しではないし、その、何なんだろう 何なんだろうと思いながらずっと最後まで読まされてしまってね。 乃南:結局、何もないんですよね(笑) 北上:何もない話をあそこまで読ませるのって すごいなって思って。つまり、言ってしまえば働く女性の生活と意見っていうことですよね、 あれは。だと思うんです。一般小説というか普通小説だと思うんですよね。 勿論それがディティールも良くて、読まされるんですけども。 ある意味で、さっき言った'94年にお書きになった「風紋」という作品は、どちらかというと 被害者の遺族と加害者の家族のそれぞれの波紋ですから、 まぁ、まだミステリーからは離れてなくて、ミステリーだと思うんですけども、 「ピリオド」まで来ちゃうと、もはやそのミステリーですらない一般小説、 良く出来た一般小説だと私は思うんですが、乃南さんの作風が徐々に徐々に変わって 来ているんじゃないかという感じはしてるんですが。 乃南:全く意識はしてないんですね。 あの、もともと さっき私がお話したように、ミステリー大好き、サスペンス大好きって いう感じで入ったわけでもないですし、デビューした当時は本当に、小説自体を書いたことが ないわけですから、これは何年かお勉強していけばわかってくるものなのか、 と考えてたんですけど何年たってもわからないままなので、多分私にはそういう 、何か分類をするとか定義づけをするとかいうのが抜け落ちてるんだと思うんですね。 ただ書いてるだけというか。だから、本となって売り出される場合に、どういう風に うたって頂いても、これはミステリーであるとか、サスペンスであるホラーである、 とかうたって頂くことは全然構わないんですが、私自身はその都度、ミステリーとして 書いているとかホラーとして書いているとか、いわゆる普通のとか、ミステリーとか 何とかじゃなく普通の小説として書いているとか、 そういう意識は最初から全然ないんですよね。 「ピリオド」という小説の場合は、今まで書いた中で一番無謀だというか、 出だしが一つ決まっただけで、どういうお話になるのか全くわからないまま書き始めた小説 だったんです。で、一節書いて次の節にどうなるのか、どういう展開があってどういう風に なっていくのかっていうのも全くわからないまま書き続けていったという、 初めての試みではあったんですが。 北上:働く女性の意見と生活を描く一般小説って いうのが、非常に少ないんですよ。昔、昔というかあの、一部あったんですが、 ある種のパターンっていうのがありまして、大体そういうヒロインっていうのは 伝統工芸に生きるんですよね。例えば機織であるとか、陶器であるとか。 ですから小説としては、勿論非常に優れた小説が多いんですが、やっぱり特殊な 女性達の話なんですよ。 そうじゃなくて、今の現代に生きる普通の勤め人、普通のOLの人達も色んなドラマが あるはずなのに、そういう女性達を描いたものっていうのは、近年でいうと 篠田節子さんの「女たちのジハード」直木賞になった、あれくらいしかないと私は 思うんですね。ま、購売してくれてる出版社にとっても大事なお客さんのはずなのに、 そういう女性に対しての喜びとか悲しみとか孤独とかを描くものが非常に少ないんで、 私は読者として、私は男性なんですけども、その手のものが非常に好きなんですよ。 ですから、どうしてもっと出てこないのかなという風に思っていた時、 この「ピリオド」を読んで、びっくりしたんですよ。 ああ、こういう小説が今の時代に求められるんじゃないかって。 ------------------------------------------- 語り:いかがでしたか? 2000年夏、去年お届けしたミステリーBAR、乃南アサさん。 ミステリーかどうかにはこだわっていないが、自分自身が書きたいものを書くと 仰っていた乃南さん。今頃は何に取り組んでらっしゃるのでしょうか。 あ、そうそうマスター。乃南さん最近は、直木賞を取った「凍える牙」の続編を書かれたり、 様々なエッセイで活躍中なんですが、面白いのは「チカラビトの国」という、 相撲の世界を乃南さん流に執筆されたとか。声の便りをことづかってきましたよ。 乃南:マスターこんばんは。ご無沙汰しております、 乃南アサです。お元気ですか? この間伺った時はすごい雨で。すみませんでした、それっきりご無沙汰しちゃって。 たまたま、ある方とお目にかかるたびに何か私が、意識はしてないんですけどお相撲の話 ばっかりしてたらしいんですね。で、そんなに好きなら書いてみますかという風に言って頂いて。 新聞の日曜版の連載というので立った企画なので、一年間かけて毎週毎週書いてたんですけど。 お相撲さん、力士というのは昔「チカラビト」と呼ばれていたというのを何かの本で読んで、 その表現をすごく気に入ったので、そのお相撲さんの土俵に上がってる時以外とか、 お相撲の世界そのものとか、まあ、今結構人気がなくなってきて批判されたりすることも あったりしますけど、一つの日本の伝統として面白い側面を沢山持っているので、 かなり、普通にお相撲を見ていて素朴な疑問とか、「あの塩、食塩なのか粗塩なのか何なの?」 とか「あの土は毎回どうしてるの?」とか、見てると出てくる素朴な疑問を毎回聞いて 歩いてたみたいな、そんな感じ。その都度まわし屋さん−まわしを作っている会社−に 行ったり、草履を作っているお店に行ったり、ある意味でそれは役得みたいな所も ありますから、そのお相撲さんに直接会って話を聞いたり、ちゃんこをご馳走に なったりっていう、いいことばっかりで、うん、楽しくやらせて頂きましたね。 ------------------------------------------- 語り:それにしても、 相撲の世界まで自らの興味を広げていたとは・・・・。その一方、ミステリファンの皆さんには 「風紋」そう、家族と加害者の家族に広がる波紋を描いた、あの作品の続編を執筆中 だそうです。こちらも楽しみですね。 いかがでした?2000年のミステリーBAR。常連のあなたにもお楽しみ頂けたと思いますが ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (この後は次回の予告などを読み上げて、BGMに移って終了しました。) ※ラジオのオンエアの録音テープから会話を拾い出したもので、聞き取りにくい箇所は 私の聞き取れた限りで言葉に再現しています。実際に話されたことと食い違うことが あるかもしれませんがご了承願います。 ※対談の中での相槌は割愛しています。 2001年9月11日 ひろみん@管理人 ▲このページのトップにもどる ▲[ゴーゴー!N'sミステリー]TOPにもどる Copyright 2001-2004 (C)ひろみん All rights reserved. |